高齢者が独りでも暮らせる家造り

家造りと言っても家を新築しようという事ではなく、からだの自由が徐々に衰えていくことの対策を元気なうちにしておこう、お金のあるうちに改造しておこうという趣旨です。 

その為には先ず家をバリアフリー化しなければなりません。

しかし、バリアフリー化することで生ずる問題があります。

これも同時に解決しなければなりません。

 

1)トイレ

 高齢者住宅は寝室にトイレがなければならない。
 寝室を睡眠のための部屋として割り切り、部屋が狭くなってもトイレを寝室内にしつらえる。これだけは必須である。通常の家にはトイレに換気扇がある。実はこの換気扇が人の命を奪う。

 トイレの換気扇は静圧に対して脆弱で逆流が起きやすい。
 例えばキッチンの換気扇が回りだすと、トイレの換気扇が負けて吸気が起きる。トイレのように狭いところに吸気が起きればトイレはたちまち寒くなってしまう。
 トイレでヒートショックで亡くなる人の数はとても多い。
 しかもトイレ経由で吸気した空気が家じゅうに回る。実に不衛生な状態になるのだ。トイレの換気(排気)はセントラル換気にしなければならないが、これには解決方法があります。

 ともあれトイレは狭く来るマイルを見越したとしても1坪といったところ。狭いトイレを暖かくすることはそれほど難しくもなく占用換気扇をやめてセントラル化し換気の逆流さえ止めれば暖房便座の熱源程度で十分に暖かくなる(勿論、住宅の基礎的な依光断熱性能がきちんと出来ていればの話しです。)

兎に角、寝室にトイレを作りましょう。

 


2.シャワー
高齢者が少ない年金で一人で暮らしていくために、毎日風呂を沸かすのは経済的に負担が大きい。
しかも寝室から寒い脱衣室をへて浴室に入るのは距離も長くそそうをしたときに間に合わないうえ、不衛生にもなる。ヒートショックのリスクも大きい。
 毎年17000人の高齢者がヒートショックで脱衣室や浴室で亡くなる。毎年ですよ。これは年間交通事故死者数の4倍に登る。 車業界がエアバッグなどの装備で事故者を減らす努力を惜しまないのに比べ、建築業界は、住宅が原因で人が死ぬことのホッタラカシぶりは目に余ります。脱衣場や浴室が寒いのは設計、つまり建築士の責任なのである。(僕は建築士であります。)
さて、温度差が死につながるほど重大な問題なのである。シャワー室が寝室にあれば、そして、寝室が暖かければ我々老人はすこしだけリスクを、回避できるようになり、快適な朝を迎えることができる。シャワー室も寝室にあるべきなのである。そして、寝室は常に適正気温、適正湿度に保たれているべきなのである。 その為には適正な暖房が必要になる。冬季の常時暖房は必須であるとWHOも国交省も考えている。 問題は暖房に係るコストを高齢者の年金で賄えるかどうかである。

3.暖房

 毎年約17000人の人が住宅内のヒートショックによって死亡しているというのは事実であり現実である。

 これを防ぐには積極的な暖房以外にない。しかし、積極的な暖房は経費がかさむ。適切な断熱や気密のとれた家ならば省エネ化できるがそうでない家も多い。
 そこで最もエネルギーコストの小さな熱源を検証してみた。
 結論はエアコンである。
 灯油系ガス系は排気ガスを捨てなければならないので熱効率は0.7~0.8。床暖房はさらに悪いく。こたつは暖房ではなく採暖であり、ヒートショックを起こしやすい。オイルヒーターは電力消費が大きすぎる。蓄熱型暖房は最悪であった(効率0.2~0.4)。
 エアコンは効率が4以上と灯油、ガス系の6倍以上省エネなのである。
よく、エアコンはのどが渇く、お肌がカサカサになるからいやだという人がいる。あたりまえなのである。何しろ効率が灯油系の6以上もあるのだから6倍以上の加湿が必要なのであった。効率が6倍なら6倍の加湿が必要になる。当然のことなのだが、ほとんどの方がこれを知らず、加湿不足に陥っている。また、加湿は体感温度にも大きく影響する。たとえば20度の50%と22度の40%はほぼ同じ体感温度となる。

 エンタルピーという単位がある。空気においては、空気の持つ熱量(空気の比重*比熱*質量)に気中水蒸気量(絶対湿度量を熱量として)加算したもの。言い換えると空気の持つエネルギーの総和となる。簡単に言えば、水蒸気を多く含む空気は暖かい。あるいは蒸し暑い。水蒸気の少ない空気は涼しい。あるいは寒い。ということである。つまり、夏の除湿は言わずもがなであり、冬の加湿はうまくすればとても効果的な暖房となりえる。

 加湿と言っても加湿器を使用して行うばかりではない。就寝時におおきな洗濯物を室内干しするとか、観葉植物を室内に置くなど、エネルギーを消費せずとも加湿は可能なのである。ただし、積極的な暖房をした上での加湿であることを忘れてはならない。
 ちなみに、気温23度、相対湿度50%の空気中ではインフルエンザウイルスは生存できない。衛生面でも加湿は重要なテーマなのである。何しろ、高齢者の死因は、

1位 悪性新生物
2位 心疾患
3位 肺炎
4位 脳血管疾患
であり、2位の心疾患、3位の肺炎、4位の脳血管疾患は積極的な暖房と加湿によって大幅に減少することができるのである。
 

4.段差の解消 バリアフリー


 バリアフリーと言われると真っ先に思い付くのは家の中の段差を無くすことだ。これはとても大切な項目だが、なかなか徹底できない。高齢者にとって段差とは6mmを超えると障壁となる。歩く動作が高齢者になるほどすり足になっていくため、たった6mm程度の段差でも躓いて転倒に至ることがある。住宅の床は徹底したフラッシュサーフェイス化が求められる。
 床の材質にも注意が必要だ。あまりにすべすべではいけない。高齢者の脚力では滑って転倒し、重大な怪我に結びつくこともしばしばである。適度に摩擦のある床材が求められる。天然の杉板などは持って来いというべき素材であり、日本には良質の杉が豊富にあり、安価である。
さて、日本の住宅は地価が高価なために二階家であることが多い。
 高齢者にとって6mmの段差を障壁というからには二階などはアルプスのようなものだ。出来るだけ近づかなにかぎる。ただ、近づかないのは簡単だが、一つ問題がある。
 二階があるために暖房の熱が二階へ逃げてしまい、必要以上に燃費を悪くしてしまう。一人暮らしの高齢者住宅の二階は熱の損失となるのである。二階は納戸と認識し、階段の上り口に扉を付けることをお勧めする。扉一枚で大きな省エネを期待できる。高齢者は長年生きてきたおかげで物持ちである。しかし、持っていても死ぬまで使わないものばかりなのだ。ここ10年使わなかったものは二階に仕舞ってしまおう。それだけで、寝室

 段差の話に戻るが、段差解消は部屋ごとの高低差を無くすだけでなく、玄関土間と床面の高さを同一平面とする。

 このことで生じる問題。
 土間と床がフラットになることで土足と床の区別がつかず不衛生になりやすい。
 これは、お掃除ロボットを必須とすることで解決する。そもそも、高齢になるとお掃除が大仕事になってしまうものだ。掃除は機械に任せる。土間と床の段差を無くしフラットにしたおかげで、土間の掃除までロボットがしてくれる。一生懸命掃除をしてくれるロボットの動きを見ていると愛おしくさえなってくる。きっとそのうちに話し相手にもなってれることだろう。今後のロボット技術の進化に期待したい。

 さらに徹底したフラット化
 玄関土間をフラットにしたのだから、屋外の地盤と玄関ポーチ、室内の床も同一平面とする。
 電動車椅子で楽しくショッピングをするためには階段などもってのほかなのである。
 このことで生じる問題。
 雨水の侵入など。
 これはすでに ”ふらはの森 ”(埼玉県東松山市に作った実験住宅)で、問題が生じないことを確認した。そもそも既存の家は地盤面より高いのである。落差解消のための接続部をグレーチング(排水格子)化する事で十分解決できる。
 ちなみに、”ふらはの森”はどなたでも無料で宿泊体験ができる。
宿泊者に押し売りをしようなどと言う姑息なことも考えてはいない。宿泊者に体感の意見を述べていただき今後の改善テーマとするのが目的である。 


5.就寝はベッドを基本とする。 

 独りで暮らす場合の布団の上げ下ろしは重大な問題である。

 元気なうちは良いのだけれど、体力が落ちてゆくと、ついつい万年床になりがちだ。万年床には大きな問題が潜んでいる。高齢者の死因の第3位が肺炎であるのはこのことが大きく影響しているのである。
 室内空気には大量の浮遊粉じんが含まれている。その成分はカビの胞子、ダニの死骸の欠片、ダニの糞、花粉、喫煙者がいればタバコの煙の粒子、VOC(揮発性有機化合物)、防虫剤(パラジクロロベンゼン)、綿ぼこり等々その種類は数えきれない。
 これらはおしなべて空気より重い。つまり床上20~30cmの層に沈殿する。
 布団で寝るということは、この最も汚染された空気層の中に寝るということなのである。この問題は高齢者だけのことではない。赤ちゃんはこの層の中で寝る。泣く。笑う。ハイハイする。小児喘息になって当たり前なのである。
 朝起きると、くしゃみをする。鼻をかむ。当たり前なのである。

 畳に布団を敷いて寝ると、布団の下の畳や床が結露しカビが生えやすくなる。
 布団の中は36度の発熱体が寝ていて、水蒸気を発散し続けるから、定常的に36度、60%の環境である。
 36度で60%の空気の露点は27度である。27度とは、布団と畳の接触点付近であり、畳は確実に結露ゾーン中に存在する。
 僕は幼いころから畳は年に2回、天日に干すものだと教育された。このことは今の職業となってから絶対に必要なことであると実験によって確認した。文化としても守るべき行為だ。
 しかし、残念ながら畳を干すという日本の風物詩は完全に絶えてしまっている。畳に暮らすには畳に暮らすための文化が必要なのである。現代の日本人はそれを忘れてしまったのだ。畳を干すことができないのであれば畳の部屋であってもベッドで就寝するべきなのである。特に高齢者はベッドが良い。そも、高齢者に畳を屋外へ運び出せというのが無理というものだ。
 ベッドであれば寝床の下に空間があるために万年床でもカビの発生につながりにくいのである。ただ、注意していただきたいのは、ベッドの下部が収納になっているものは使ってはいけない。収納内に結露が生じやすいので床に布団を敷いて寝ているのと同じ現象が起こりやすい。
 また、ベッド下には埃がたまりやすい。これも肺炎の原因になる。ベッド下に高さ120mmほどの空間があれば、お掃除ロボットが活躍することができる。

 さて、ベッドならば万年床であっても、敷布団が湿気にくいことはわかっているが、せめてシーツはこまめに交換したい。

 シーツの取り換え作業も、床に直においてある布団に対するそれより、ベッド上での作業のほうが楽である。寝る、起きるもベッドのほうがはるかに楽である。
 ベッドの高さを調整することができれば個々の身長に合わせてジャストなセッティングが可能だ。高さを調整するということになるとスチールパイプ製の介護用ベッドということになる。衛生面から考えても木製の高級ベッドより、スチール製の介護用ベッド方が合理的である。


 介護ベッドというと自分が急に老けこんでしまったようで、心理的に寂しい思いをするかもしれないが、ここは「楽で衛生的な方が良い。」と割り切って、明るく乗り切ろう。
ところでシーツをこまめに取り換えるためには、シーツをこまめに洗濯しなければならない。そこで問題になるのは洗濯機と洗濯のしかたである。

6.洗濯

 トイレやシャワー室が寝室にあるのと同じように洗濯機もシャワー室付近に置くことが必須の家電である。一人で暮らす高齢者に脱衣かごなどは無用である。シャワーを浴びるときに脱いだ衣類は直接洗濯機に投げ込む。シャワーから出て体をふきパジャマでくつろぐ間に洗濯は完了する。

 洗濯物は冬ならば寝室に干す。洗濯物が加湿器の代わりに加湿してくれるからだ。就寝中の加湿は、高齢者にとってとても大切な空気管理の一つなのである。何しろ死亡要因の第三位は肺炎なのである。
 洗濯物は冬は夜、夏は昼間干すのが良い。
 

 高齢者が少ない年金で暮らしていくためには生活経費をできるだけ削減したい。


 光熱費を削減するためにはオール電化契約が有利である。入浴用のお湯も深夜電力で沸かすことができる。洗濯もタイマーを使えば寝ている間にすることができる。その為には洗濯機の騒音に対して知らなければならない。最近流行りのドラム式洗濯機はお勧めできない。

 ドラムを回転する機構に無理があるから音が大きい。洗濯機は縦型が静かだ。僕は深夜、寝ている間に洗濯するので、洗濯機は騒音レベルで選択している。東芝のDDインバーターシリーズは際立って静かな洗濯機であり、消費電力も少ないのでおすすめだ。また、洗濯機に乾燥機のついているものは室内では使わない方が良い。乾燥運転で室内の浮遊粉じん量がとても多くなってしまうので高齢者には厳しいといえる。。

 洗濯の注意点。
 洗剤を多く使えば綺麗に洗えるというものではない。洗剤の量が適正でなければすすぎ運転で十分にすすぐことができず、洗剤の残留した衣類を着ることになる。これも呼吸器に対してダメージを与える。洗剤は、衣類の量に合わせて適当な量を使用すること。 今の洗濯機は衣類を投入すれば重量を計って表示してくれるから、その表示に従えばよいのである。
 柔軟仕上げ剤というものがある。陽イオン系界面活性剤の場合が多い。香料も少なからず使われている。

 僕は柔軟仕上げ剤の匂いを嗅ぐと呼吸困難に陥る。実際に健康被害の報告も多い。
 体力の落ちてきた高齢者の柔軟仕上げ剤の使用はいかがなものかと感じている。

7.物干し 

 室内干しは匂いが出て嫌だという人がいる。
 しかし、それは見当違いである。
 洗濯物が匂うようになるのは干し方ではなく、洗濯機の管理に問題がある。 
 洗濯機の除菌であるが、塩素系のカビ取り剤などは決して使用してはいけない。
 塩素は強力であり、カビを撃退してくれるが、カビの天敵たちも殲滅してしまう。その結果、カビが真っ先に復活する。カビ菌は空気中にも飛んでいるのであり必ず復活する。

 洗濯機の除菌は酸素系薬剤による除菌が良い。
 最もおすすめは乳酸系のものだ。まちがっても塩素系、次亜塩素酸ナトリウムなどは使用してはならない。塩素ガスが発生し、人体にも有毒である。乳酸系ならば高齢者の身体にも優しく、安全である。乳酸系ならばカビを撃退し、カビの天敵である乳酸菌に優しいから、乳酸菌の増殖をそくし、カビの生えにくい環境を整える。これは浴室にも言えることである。
 しかし、乳酸系カビ取り剤は高価である。
 安上がりに安全にカビ取りを行いたければ、過炭酸ナトリウムの溶液を噴霧する。
 過炭酸ナトリウムは薬局で取り寄せてもらおう。5~600円で大箱が買える。

 衛生的な洗濯機で洗濯したものは異臭など放つことはない。洗濯物はとても良い加湿器なのである。特に冬は積極的に室内干しをしよう。夏は窓を開けて風通しに留意すれば問題はない。


8.キッチン

 IHクッキングヒーターというものがある。言わずと知れた調理器具である。

 従来はガスコンロが一般的であったが近頃はIHクッキングヒーターの比率が上がってきた。先進的な調理器具は若い人たちに受けが良い。しかし、我々高齢者にはなかなかなじめないところがある。何しろ炒め物をするのにフライパンを振らずにやるなんて、有り得ないことのように思える。しかし、IHクッキングヒーターにはなかなか良いところがある。その特筆すべき点は火災が起きにくいということだ。調理中に火元から離れるなどあってはならないことだが、現実には煮物をしていてうっかりそのことを忘れテレビに見入ってしまい。鍋を黒焦げにしてしまったことなど誰にでもあることなのだ。今日、楽しいソーシャルネットに没頭して火災を引き起こすことは十分にあり得る。

 自分を過信せず、万が一の事態に備える意味でもIH化が好ましい。まだ若く好奇心のあるうちにIHになじんでおくのも良いことではないかと思う。 

 IHにはもう一つ良いことがある。夏の暑い日の調理でも、室内が暑くなりにくい。炎を使わないので排気ガスが出ないからだ。排気ガスが出なければお湯を沸かす程度なら換気扇を作動させる必要もない。エアコンの使用頻度も減るというものである。否が応でも齢を重ねる宿命である。火災など起こして、隣近所に迷惑をかけないよう、取り組むべきポイントと言えるのである。

 

9.防犯


 か弱き高齢者の住む住宅には防犯という考え方は必須である。
 二人で暮らしていたとしても泥棒や強盗に押し入られては対抗する力はない。
 まして、一人暮らしでは・・
 せめてもの対策として戸締りはもちろんだが、何らかの方法論を準備するべきである。
 僕が実際に講じている方法は買取型の防犯装置だ。
 近頃は月々の契約で警備をすると称するビジネスもあるようだが、彼らは暴漢や泥棒がいる間は決して現場には近づかない。遠の昔に逃亡してから、ノコノコとやってくる。高齢者の家の命を守るための防犯にはならないのである。
 

 防犯装置とて、命を助けてくれるとは言えないが、ドアや窓を破られた瞬間に《侵入発生!侵入発生!侵入発生!》とけたたましく叫んでくれる。これだけで泥棒は逃げだすであろう。
 それから、現在の建築基準法では、火災報知機の設置が義務付けられている。火災報知機の設置をしていない家庭では早めに設置することをお勧めしたい。
 僕の使っている防犯装置はこの火災報知機も接続し連動することができる。
 もしも外出中に自宅が火災になったり、賊が侵入したりしたときには、自分や子供たちの携帯電話に通報してくれる。自分で警察や消防署に通報すればよいのである。
 また、無稼働通報という機能もある。自分が倒れて意識を失ったり、ケガで動けない場合に、玄関やトイレのドアが半日に一度も動かなかったというような状況には、子供たちに自動的に電話をかけてくれる。
 こういったシステムを備えていても、月々の契約で警備をする警備会社の支払より、はるかに安上がりであり、維持費は乾電池の取り換えと電話だけなのである。
ちょっと贅沢と感じるかもしれないが、考えようによっては安い買い物であろう。

続く