気密の「気」は水蒸気の気

C=0.36㎠/㎡

 気密測定結果で出て来る数値をC値(しーち)という呼称で呼ばれています。C値とは「相当隙間面積」と言われ「建物全体の隙間を全て足すとどれだけの面積の穴になるか」の目安です。ちなみに、C値=0.36を下回れば屋外で強風が吹いていても漏気が殆どないという実験結果がありますので、それをベンチマークに、住宅の気密の品質管理を行っている建築会社が多いようです。

 

住宅事業者のなかには、「建築基準法の24時間換気の義務さえ果たしていれば、C値なんて関係ない。」「高断熱であれば空調も効くからC値なんて関係ない。」と言われる方も少なくありません。

 

さらに高気密という言葉のイメージがビニールハウスを連想し、「窒息気密住宅だ!」と嫌う人さえ居られます。全くの誤解であるばかりか、誤った見解により住み手に大きな損害を与えている可能性が高いです。それは健康面や光熱費に密接な関係があるからです。

 

1)隙間風の防止

 大抵の新築の家では壁紙や床やコンセント等キッチリ隙間など無く施工されていて、見た目は気密測定などしなくてもこの家には隙間など見当たらないと思いがちですが、そうではない現場は多いのです。

 

気密測定で測る隙間は天井裏や間仕切り壁と天井・間仕切り壁と床・キッチンや洗面台の配管周り・電線孔等の壁や天井の裏側の隙間です。気密測定の際に大きなファンで空気を送り出すことでこれらの隙間から外気が漏れてコンセントやダウンライトやユニットバスの点検口などから外気が流入します。
 

下の図の様にピンク色の断熱材の内側に外の冷たい空気が流れ込んでしまわないようにチェックを行う工程を気密測定と呼びます。折角工事費をかけて断熱工事を行った意味が無くならないようにするためです。

 しかし、ただ建物の隙間を物理的に塞いでも埃の侵入は減りますが水蒸気の出入りは減りません。本物の高気密仕様にするには、水蒸気を遮蔽出来る高分子のシートで防湿層の連続体を外壁の室内側に作らなければなりません。

 

2)潜熱の断熱

 水蒸気の出入りを止めなければならない理由は3つあります。

 

■加湿がしにくい

 水がガス化した水蒸気(水の分子)の大きさは0.3nm(ナノメートル)で、百万分の一ミリを3分割したよりも小さいのです。室内に貼られたビニールクロスや石膏ボードや合板をザルの様に軽々と通り抜けます。

冬に室内で暖房を行うと空気が乾燥しますので加湿をしなければ健康リスクが発生します。水蒸気を逃がしてしまう密閉性のみの高気密の仕様では加湿が計画通りに行えません。

 

■壁の中が湿気る

 加湿器のタンクの水は暖房した室内で気化し水蒸気というガスとなり、内装材を通り抜け外壁の内部で再び冷やされ水に戻ります。断熱材の中でも外に近づくポイントで露点になるからです。

その結果、壁の中の断熱材や材木が湿気たり濡れてしまいます。加湿器を使って壁の中に水を撒いてるイメージです。 断熱材が湿気ると断熱性能は低下しますし構造木材の腐食にもつながりますので、ひとつも良い事はありません。

 

■潜熱の断熱

 温度計で計れる「熱い・冷たい」は顕熱(けんねつ)で、水が気化した際に大気中から奪った熱は潜熱(せんねつ)です。湿度の高い空気が蒸し暑いのはこのためです。夏に冷房のスイッチを消したとたんにモワっと暑くなる熱はこの潜熱です。顕熱の断熱材(断熱性能)のスペックはカタログに書いてありますが、潜熱の断熱は施工した人によって違うので完成現場を測定するしかありません。

 

 以上の3つの理由で防湿性能は必須ということになります。

高気密の「気」は空気ではなく、水蒸気の「気」であるのは理解いただけましたでしょうか?

 

上記の水蒸気の「潜熱」と温度の熱「顕熱」の2つの合算が体感温度です。

梅雨の時期は湿度が高いので気温が低めでも蒸し暑く感じるのと同じで、住まいの快適環境を作るには水蒸気の絶縁をしてコントロールできるようにしておくことが重要です。

 

顕熱の絶縁は断熱材なのでカタログでスペックを確認できますが、潜熱の絶縁は防湿シートですので、気密測定ですら判断し難いのです。つまり潜熱の絶縁を担保するのは大工さんの腕と現場監督の管理手法次第になります。カタログに書いていない事が案外、重要だったりしますね。

壁体内結露
壁体内結露(ベイパードライブ)
防湿層の重要性
防湿層(ベイパーバリア)の重要性

3)換気

 もう一つは換気です。

気密性能の良くない家は右下の図の様に換気経路のショートサーキットをおこして居室の汚れた空気を計画通りに排出する事が出来ません。

 

換気扇が回っているだけで何の役にも立たず、冬季に於いてはトイレや洗面所を冷房している状態です。キッチンで大きな換気扇を回した時に、色々な箇所から逆流が起こっています。暑い、寒いだけでなく不衛生でもあります。コロナ過で換気を気にして換気扇を”強”にしても、トイレの窓や床の隙間からの漏気を即排気するだけで、汚染空気の排出が出来ていない事も多いです。換気による熱損失よりも、すきま風の熱損失の方が多い住宅も現実にはまだまだ多いのです。