断熱材の種類?

暖かくて快適な家を作ろうと思うと欠かせない断熱材ですが断熱材を比較するにあたって目安になるのは「熱伝導率」です。

読んで字の如く熱の伝わり易さです。当然、断熱材ですので数字が小さい方が熱が伝わりにくくて優秀です。

もう一つの数字が「熱抵抗値」です。こちらは抵抗ですので数字が大きい方が優秀です。

「熱抵抗値」は実際に使う厚みで断熱性能を表していますのでより現実に近い数字です。
一般的に使用されるメジャーな断熱材4種類のスペックを比較してみてみましょう。


■吹付硬質ウレタン 0.032~0.04w/mk(熱伝導率)

 

1-3種までそれぞれありますが、現場で直接躯体に断熱材を吹き付けますので隙間が無く断熱欠損が殆どありません。
抜群の施工性で工期も短縮できます。

高性能な断熱材を入れても隙間部分の断熱性能はゼロですので隙間の出来難いこの工法は画期的です。

熟練工が施工を行えば電気配線の穴や水道の配管の裏などもびっしり塞げます。

同時に躯体の隙間も塞げますので建物の密閉性は上がり隙間風が減ります故に体感温度も上がります。

 

しかし、ウレタンという素材には加水分解という劣化の宿命があり、住宅建築に断熱材を使う際は『経年劣化を加味した熱伝導率算出のための補正係数』という長い名前の補正係数があり、将来どのくらい断熱性能が劣化するのかを考慮して設計しなければなりません。

また屋内外の水蒸気の圧力差により断熱材の中が湿ってしまった際に乾くまでの時間が長くかかります。その間の断熱性能は含水量に比例して低下します。

 

現場発泡ウレタンの劣化補正係数は0.75です。つまり将来25%断熱性能が劣化する前提ということになります。

 また、将来建物を解体する際に木材に発泡ウレタンが付着している為に産業廃棄物の処理問題などを抱えています。

 

※ウレタンにも2種類存在し独立発泡(クローズドセル)と言われて泡がひとつ毎独立していて水蒸気(潜熱)を通しにくいものと食器洗いスポンジの様に泡が連立していて水蒸気(潜熱)を屋外に容易に逃がしてしまうものの2種類が存在します。


■フェノールフォーム ★0.02w/mk(熱伝導率)

 

断熱材にも様々な種類がありますが、熱伝導率で比較をするとフェノールフォームが一番高性能です。

一般的な呼称では「ネオマフォーム」と言いますがこれは旭化成社の商標です。
合成樹脂にも関わらず難燃性で経年変化にも強く耐熱限界が130℃と優れものですので屋根断熱にも使われます。

 

しかしこのフェノールフォームは発泡樹脂をボード状にしたもので厚くしてしまうと施工性が悪く更に外壁や屋根の下地材を止めつける都合もあり通常は50㎜程度の厚さの物を使用します。

グラフを見ての通り、厚みを考慮して断熱性能を比較すると柱の間に厚く断熱施工が出来る吹付硬質ウレタンやグラスウールの方が高性能になってしまいます。価格が高価なことや耐熱限界の高さから屋根断熱等一部分だけに使う事が多いです。

 特に高価な仕様ではこのネオマフォームを壁・屋根共外断熱にして柱や梁などの熱橋を少なくして施工をしています。熱橋が減り劣化も少ない為、実質的な断熱性能は吹付硬質ウレタンと同等かそれ以上になります。

 

下の写真は押出発泡ポリスチレン工業会の資料です。2種類を比べると水を含みやすい性質があります。

『経年劣化を加味した熱伝導率算出のための補正係数』は0.92です。


■押し出し法発泡スチレンフォーム 0.024~0.038w/mk(熱伝導率)

 

フェノールフォームに次ぐ熱伝導率の低さです。つまりハイスペックな断熱材です。

一般的な呼称では「スタイロフォーム」等と言いますがこれはダウ化工社の商標です。

フェノールフォーム同様に厚みを増してしまいますと施工性が悪くなりますので50㎜程度のボード状で使用しますので厚みの確保できる素材と比べると実際に使用する厚さ相当では劣ってしまいます。

水を吸い込みにくく施工中の雨などに強いので床下断熱材や基礎コンクリートに打ち込んだりして使用します。

壁の外断熱に使用する事もありますが屋根については耐熱限界が70℃程度と低めなのであまり使われません。

『経年劣化を加味した熱伝導率算出のための補正係数』は0.88です。


■グラスウール 0.038~0.05w/mk(熱伝導率)

グラスウールは最も普及ているガラス繊維を綿状にした断熱材です。

現場で切断しようとするとチクチクしたガラス繊維が肌に触れて不快なうえに先ず真っ直ぐに切断することが困難です。

配線箇所等や金物の切込み等が難しく施工性は最悪です。水を良く吸い込みますが同時に乾くのも早いです。

コストパフォーマンスは断トツで施工性の悪さを技術力で補う事が可能であれば耐熱限界の高さや経年劣化しない事、燃焼しないことなど建築材料としてとても優れています。

素材に廃ガラス瓶を使っている等環境負荷も低く抑えられます。

 

一番の問題点は水蒸気を通しやすく潜熱が外部に漏れやすい為、精度の高い防湿工事が必要です。 


■セルロースファイバー55㎏/㎥ 0.04/mk(熱伝導率)熱抵抗値2.22/100㎜

 

セルロースファイバーは上のグラフには有りませんが補足です。再生紙を粉砕リサイクルしホウ酸を燃焼遅延材として含侵させてある繊維状の断熱材です。55㎏/㎥で壁に吹き込みますので比重に比例して防音性能が高いことも特徴です。吹込み施工ですので施工時に隙間ができにくいのも特徴です。耐熱限界が80℃と低めなので屋根断熱には不向きです。

 

また、日本ではこの断熱材を用いる際は防湿層を省略できるといわれています。セルロース繊維は水蒸気を吸放出できるからと言うことです。しかし0.04/mkの熱伝導率はセルロースファイバーが乾燥状態の際の断熱性能ですので吸湿状態では水の熱伝導率が影響してしまい断熱性能は低下します。他の断熱材にも吸湿による性能の低下は有ります。

 

日本の多くの地域、例えば日本一暑いといわれている埼玉県熊谷市でさえも冷房より暖房期間の方がはるかに長く同時に加湿を必要とします。室内の水蒸気は断熱材に吸湿させないで室内に留めておくメリットの方が多いのが現実です。

 

 セルロースファイバーの生産国アメリカでは建築基準法により多くの地域で防湿層の確保が義務付けられています。セルロース断熱材の利用で防湿層を省略する場合は地元の行政機関と協議する事が前提となっています。(セルロース断熱材製造業者協会CIMAによる) 設計者個人や断熱材の営業職の人が決める事ではありません。


それでは住宅を造るにあたってどの断熱材を使用すれば良いのか?
先ず、火災から住まう人を守らなければなりませんし、コストも考慮しなければなりません。

働き方改革もありますので施工性も良好でなければなりません。

設計スペックと施工現場のスペックに差がついてはなりませんし化学物質の放散もあってはなりません。

劣化をしてもいけません、熱による変形も問題外です。

スペースに余裕が有る箇所であれば低いコストの断熱材を厚く入れるべきでやたらと高性能なものは要りませんし・・

つまりは沢山お勉強してから適材適所に使い分て設計を行う事ですね。

いくら断熱材の熱伝導率が優秀でも窓の性能が悪くては意味がありません。窓と断熱材のどちらにコストをかけるも考えながら設計する必要があります。

当然、間取りも影響します。

折角、断熱計画を完璧に行っても暖房設備の選定や設置位置がいまいちでは台無しです。

                                        環境事業部 関口崇