気密の「気」は水蒸気の気

C=0.36㎠/㎡

 高断熱・高気密住宅とは言いますが

 どのみち建築基準法で24時間換気を義務付けられているのだから、少々のすきま風があろうが問題なく

 高気密でなくても高断熱であれば、暖かいし夏も冷房が効くから必要ないと考えている方もおられるようです。

  さらに、高気密という単語はあまりイメージが良ろしく無く、家をビニールシートでラッピングしてしまい窒息しそうなイメージがあるそうです。 

 私どもの業務に気密測定という建物の隙間の大きさを測る業務があります。

 その測定方法は大きな送風機で家の中の空気を強制的に吸い出し、その際に送風機の手前の筒をどのくらいの体積の空気が流れたかを測りその数値を根拠に計算し建物の合計隙間面積を求めます。

 10パスカル~50パスカル迄10パスカル毎にどのくらい空気が流れたか5回測定します。

  余談ですが、この測定中に「空気が薄くなってしまうので外に出ていた方が良いですか?」と依頼者からよく質問されます。

 50パスカルの減圧ですのでキッチンの換気扇で減圧出来るレベルです。苦しくもありませんし何も害はありません。

 ちなみに台湾にある台北101という高さ509mのビルに施工した東芝のエレベーターは地上階から最上階までの移動時の気圧差がは48.03ヘクトパスカルあるそうですが窒息したという話は聞きません。 (へクト=100倍ですから4803パスカルです。)

 

 この気密測定結果はC値(しーち)という呼称で呼ばれていましてでは業界では「しーち幾つ?」という会話を良くします。

 C値=0.36を下回れば屋外で強風が吹いていても漏気が殆どないという実験結果がありますのでこの0.36をベンチマークに住宅の気密の品質管理を行っている建築会社が多いようです。

 C値が小さいほど隙間は少なく、同時に換気扇を回した際に室内の空気が減圧されます。


 話は戻ります。

1)隙間風の防止

 大抵の新築の家では壁紙や床やコンセント等キッチリ隙間など無く施工されていて見た目は気密測定などしなくてもこの家には隙間など見当たらないと思いがちです。

 気密測定で測る隙間は天井裏や間仕切り壁と天井・間仕切り壁と床・キッチンや洗面台の配管周り・電線孔等の壁や天井の裏側の隙間です。気密測定の際に大きなファンで空気を送り出すことでこれらの隙間から外気が漏れてコンセントやダウンライトやユニットバスの点検口などから外気が流入します。
 下の図の様にピンク色の断熱材の内側に外の冷たい空気が流れ込んでしまわないようにチェックを行う工程を気密測定と呼びます。折角工事費をかけて断熱工事を行った意味が無くならないようにするためです。

 しかし、ただ建物の隙間を物理的に塞いでも埃の侵入は減りますが水蒸気の出入りは減りません。

 本物の高気密仕様にするには水蒸気を遮蔽出来る高分子のシートで防湿層の連続体を外壁の室内側に作らなければなりません。

 

2)潜熱の断熱

 何故、水蒸気の出入りを止めなければならないのか理由は3つあります。

 

 ■ひとつ目は「加湿がしにくい」

 水がガス化した水蒸気(水の分子)の大きさは0.38nm(ナノメートル)ととても小さく、室内に貼られたビニールクロスや石膏ボードや合板をザルの様に軽々と通り抜けます。

 冬に室内で暖房を行うと空気が乾燥しますので加湿をしなければ健康リスクが発生します。水蒸気を逃がしてしまう密閉性のみの高気密の仕様では加湿が計画通りに行えません。

 

 ■二つ目は「壁の中が湿気る」

 加湿器のタンクの水は気化し水蒸気となり内装材を通り抜け外壁の内部で再び冷やされ水に戻ります。

 その結果、壁の中の断熱材や材木が湿気たり濡れたりしてしまいます。

 加湿器を使って壁の中に水を撒いてるイメージです。 断熱材が湿気ると断熱性能は低下しますし、構造木材の腐食にもつながりますのでひとつも良い事はありません。

 

 ■三つ目は「潜熱の断熱」

 温度計で計れる「熱い・冷たい」は顕熱で、水が気化した際に大気中から奪った熱は潜熱です。

 湿度の高い空気が蒸し暑いのはこのためです。夏に冷房のスイッチを消したとたんにモワっと暑くなる熱はこの潜熱です。顕熱の断熱材(断熱性能)のスペックはカタログに書いてありますが潜熱の断熱は施工した人によって違うので完成現場を測定するしかありません。

 

 以上の3つの理由で防湿性能は必須ということになります。

 高気密の「気」は空気ではなく、水蒸気の「気」であるのは理解いただけましたでしょうか?

 

 上記の水蒸気の「潜熱」と温度の熱「顕熱」の2つの合算が体感温度です。

 梅雨の時期は湿度が高いので気温が低めでも蒸し暑く感じるのと同じで、

 住まいの快適環境を作るには水蒸気の絶縁をしてコントロールできるようにしておくことが重要です。

 

 顕熱の絶縁は断熱材なのでカタログでスペックを確認できますが

 潜熱の絶縁は防湿シートですので現場で気密測定を行う以外に確認する方法は無くその出来を担保するのは大工さんの腕と現場監督の管理手法次第になります。

 カタログに書いていない事が案外、重要だったりしますね。

壁体内結露
壁体内結露(ベイパードライブ)
防湿層の重要性
防湿層(ベイパーバリア)の重要性

3)換気

もう一つは換気です。

気密性能の良くない家は右下の図の様に換気経路のショートサーキットをおこして居室の汚れた空気を計画通りに排出する事が出来ません。

換気扇が回っているだけで何の役にも立たず、冬季に於いてはトイレや洗面所を冷房している状態です。
コロナ過で換気を気にして換気扇を”強”にしてもトイレの窓や床の隙間からといれの換気扇に向かう換気量が増えるだけの事もあります。

令和3年の現在でも換気による熱損失よりもすきま風の熱損失の方が多い住宅が沢山建てられています。