住宅の省エネ性能を示すUa値とは「外皮熱還流率」の事で単位温度差あたりの外皮熱損失量です。といわれても意味が解りませんね。
決して難しい事では無くただの暖房熱の逃げやすさです。
例えばUa値0.87w/㎡・kの家とは
屋内と屋外で温度差が1℃の時に外壁や屋根の1㎡(平方メートル)あたり0.87w(ワット)の熱が漏れるという事です。
外気と屋内の温度差が20℃であったら0.87wx20℃で1㎡辺り17.4wの熱が逃げていきます。
36坪の家で床・壁・天井の外気に接する部分が280㎡x20℃差の家があるとすると
17.4wx280㎡で4872wの熱が逃げる事になります。
(8畳用のエアコンx2台分に相当する熱が逃げる)
上記の様に熱の逃げやすさですので数値が小さい方が逃げにくく高断熱な家という事です。(実際はこれに換気による熱損失が生じます)
熊谷市は6地域という温暖地に区別されUa値0.87以下を省エネ基準としています。
北海道の一部など寒冷地は1又は2地域ではUa値0.46以下を省エネ基準としています。
下のグラフは36坪のモデルプランの家を高断熱化していくとどのくらいエネルギー消費が減るのか或いは省エネ設備に交換するとどのくらい減るのかを可視化したグラフです。
寒冷地は暖房の期間が長いので断熱性能の強化は省エネ効果がてき面ですが、温暖地では断熱性能を強化しただけでは数%しか省エネになっていません。照明をLED に変更したり給湯器を省エネの設備にしたり熱損失の少ない換気設備にした方が手っ取り早く省エネ出来るように見えます。
※国立研究開発法人建築研究所の発行する「エネルギー消費性能計算プログラム」のモデルプランをたたき台に計算したものです。
Ua値0.87 C値4.5
Ua値0.45 C値0.7
6地域のUa値0.87の省エネ基準は昭和のライフスタイルであれば「省エネ」です。
グラフを見ますと温暖地でUa値(断熱性能)をあげてもいくらも省エネにはならない様に見えますがこれは寒冷地との冬の長さが影響しています。
温暖地でも冬はしっかりと寒く6地域の熊谷の冬の空気のエンタルピー(空気に含まれる熱量)は10.8kJ/㎏と新潟市の11.1kJ/㎏よりも少なく体感温度は低いのです。さらに熊谷市の冬は赤城おろしが吹きますので気密性能も上げないと更に寒く感じます。温暖地のUa値0.87の住宅で折角省エネ住宅を購入したからといって寒冷地の住宅と同様に24時間暖房をしてしまう事で乗数的に消費エネルギーが増大し上記のグラフの様にはいきません。昭和の半纏を羽織った生活をしていればUa値0.87でも省エネといえるでしょう。
温暖地であっても快適性を維持できて尚、省エネな家を求めるとUa値0.87では断熱不足なのは明らかで熊谷でも寒冷地並のUa値0.4~0.5くらいは確保したいところです。
これらの事情で冬は寒冷地の人の方が快適に暮らしているという逆転現象が起きてしまいます。
【給湯器の省エネ性能について】
上のグラフでは給湯機器をエコキュートに変更したことによってUa値を0.2グレードアップしたのと同等のエネルギーを削減した事になっていますが現実はタンクや室外機の設置場所によって大きく結果が変わります。良い事ばかりでなく15年程度で故障する事を考慮する必要があります。
【建築的手法による省エネ】
エアコン等の暖房器具も設置場所や使い方で効率が大きく変わります。
日射の取り入れ方や日射の遮蔽の方法により全体の冷暖房負荷も大きく変わります。
設備投資の回収が終わる前に地震で倒壊しても意味がありませんので家そのものを頑丈に作らなければなりません。
省エネ住宅の省エネ効果は設計スキルやその建築的手法で大きく投資回収率が変わるのは事実です。
基本的に省エネ住宅の省エネ効果は長期で考えないと性能を上げるために投入したエネルギーを回収する事が困難です。
【気密性能の向上による省エネ化】
上のグラフの数値は計算要素の断熱性能の劣化が無いものとしての計算です。防湿層(一般的に気密シートと呼ばれる物)が無く断熱材の劣化を招きやすい設計ではこのような省エネ効果は見込めません。また、熱損失の少ない換気システムを導入してもすきま風による熱損失はばかになりません。換気よりもすきま風の熱損失の多い住宅が未だに沢山建てられています。
気密性能(防湿性能)はとても重要です。
やたらと高価な断熱材を使うのであれば気密性能の向上をした方が快適性は担保できます。
【呼称と現実】
「省エネ住宅」とは「健康住宅」と同様にただの呼称です。「安全ピン」や「安全剃刀」が安全では無いのと同様で呼称通りの物の造り方を知っているか或いは造れるかは結局設計者と施工者のスキル次第になってしまいます。
「高性能な断熱材を沢山使用して建てられた家」と「高断熱の省エネ住宅」は似て非なるものです。
消費エネルギーの削減効果の計算は概算です。
※国立研究開発法人建築研究所の発行する「エネルギー消費性能計算プログラム」のモデルプランをたたき台に計算したものです。間取りや立地等で結果は変わりますことをご了承ください。
環境事業部 関口崇